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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
11 一九四四年(昭和十九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页
働く手が折々止ります、荷をつくるこころもちに我から打たれて。
ところでね、一つこころからのお願いがあります。
それは、ブランカのアンポンが余り早めにはじまるとわたしは、途方にくれてしまうから、当分、余りきれいな星空のことや月明りのことや花の蕊のいい匂いのことやは想わないで、おかなければいけないということです。
空想というものは、どんなに其が光彩陸離としていようとも、それは在りはしないこと、本当に知ってはいないこと、そういうことの蜃気楼です、薄弱なものです。しかし在ること、まざまざと在ること、そして知っていること、今すぐにでもくりかえし其のリフレインをききたいこと、そういうことの心の上での再現は、愉しさの限度に止らず、病気のようにさせる位つよい作用をもって居ります。
しかも、そういう自然の開花と、今との間には、まだ一つの生涯と呼ぶにふさわしい丈緊張と努力の予想される時間が横わって居ります。ユリが不束ながらもっているはっきりした眼、実際性を、極度に必要とするときが。季節より早く咲いてしまう花は、風にもろうございます。だから、わたしは一生懸命、意志をつよくして、必要にこたえる準備に力を注ごうと思います。