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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
11 一九四四年(昭和十九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页
これはどういうことでしょう、思うに、周囲は非常にざわめき揺れ漂っているのね、生活感情において。歴史はジグザグして幅ひろい線で進行して居るわけでしょうが、箇々の人々の生活というものは、その進行とともにその方向へ適確な動きをしているのではなくて、波間に浮く樽のように、自からの大局からはその方へ動きつつ自覚としては旋回的なのではないでしょうか。動きに対して受動で。どっちを向いても何しら流れ漂っている感じです。そういう中に、積荷がしっかり荷綱によってくくられていて、かなりひどく揺れながら船体の安定は保たれている確信があり、スクリューはともかく廻って、潮にしっかりと乗っている一艘の船のように自分を感じるということは、少くとも大した仕合わせではないでしょうか。わたしはこういう感じこそを窮極の幸福としてうけとります、そして自分に願うのよ、舳よ舳よ、しっかり波を突切れ、濤にくだかれるな、もちこたえてのりこえよ、と。何故なら舳のところから親綱がひかれていて、先に親船が進行して居ります。切れることのないそれはひきつなです。舳がつなをもっていられる限り。舳もはっきり知って居ます。