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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
11 一九四四年(昭和十九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页
花やの店は大部分しめているのでたのんだのでしたが、肴町のも閉めていて、白山よりの左側の花やで買った由。白い菊、えんじの小菊、黄がかった中菊。この机の上にはえんじのをさしました。こんなに花のつつましい十七日は十何年来はじめてね。いつも花は困るぐらい溢れましたが。この花松という店、白山のわたしがはじめてポートラップというものをおそわった小さい喫茶店、覚えていらっしゃるかしら。あのすこし手前よ。ポートラップの店は今何を売るかしらないが形はあるようです。あの向いの南天堂のひどさ(本の)、それはどこも同じです。あの通りの中央に、大きい貯水池ができかかっていてほじくり返しのゴタゴタです。もう何ヵ月もよ、働いている人の姿もないままです。
ことしのきょうは、わたしとして特別に心からのお祝いをのべたい心もちです。わたしの胸にいっぱいのほめ歌があって、それをどういう表現で伝えたらいちばんふさわしいだろうかと思案いたします。くりかえし、くりかえし考えます。非個人的な感動やよろこびを、最も個人的なような立場のものがひとに話すことは殆んど不可能であると。しかも、そのように規模ゆたかなるよろこびを、個人として近いからこそ、ひとしお深くつよく感じて、一層非個人的なひろがりに到るということは、何と微妙なあやであろうかと。