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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

11 一九四四年(昭和十九年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页

青空文庫

紀の兄で十八の息子が紀のところから専門学校の機械に通って居ります。この豊寿という人は、十七年の七月末にわたしがひっくりかえった晩林町へ上京して来て、家じゅう空っぽにしてかけ廻る番人をしてくれたのですって。三日目に気がついて何かお礼云ったのを覚えて居ります、ですから、わたしとしては三年目の上京には、ひもじい思いをさせられないのよ。台所の戸棚あけてつらつらと眺めますが、あるものと云えば、さつまいも、かぼちゃ。どっちも自分として、とびつく気にならず。パタパタ火をおこしていながら思案して、ないにはまさる、とカボチャうんと切って味丈は美味しく煮て、火なしコンロ(おはち入れの応用)へしまって、さて考え考え足し足ししてお米をとぎ、汁のためのダシをとり、その間、腰かけへかけてアン・リンドバーグの「北方への旅」のつづきをよみました。アンは利口な女性です、本をかくにも、話術を忘れません。女らしくきのきいた(機智のある)ものの云いかたの中に批評も反駁も主張もふくませる、という調子で、アメリカの所謂上流文化人の社交性の文字化されたような味があります。スカーレットの、何ぞというと男の眼ざしなんか丈気にしていた時代の女の利口さが、どの位前進して来たかを感じさせます。