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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
11 一九四四年(昭和十九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页
十時すぎに、国と、手伝っている事務所の女の子が開成山へ行きました。一人よ。ですから全く二人きりなの。
三十一日の次の一日が空襲警報だったし、二日はそちらへ行って、夜、どうかして疲れすぎて心悸亢進したりし、三日はきょう立つというのでソワソワで一日中落付きませんでした、雨がひどかったしね。こうやってしずかで、二人きりなのは大変休まります。ゆっくり一日休めるような日は、あなたはほんとに少ししか口をお利きにならないことね、殆ど一日用のほかはものを仰云らず、体を楽にして軽いものをよみながら、そういうしずけさの中に充実している心もちよさを吸収なさいます。きょうなんかは、確にそういう日よ。わたしも同じ沈黙の賑わいを感じ乍ら、ゆっくり台所をしたり本をよんだり、心から愉しいでしょう。
国男の事務所は、十一月一日からボカシのような工合で、内容が入れ代り、事務所のカンバンは出ているそうですが、所員は国一人で、協電社という小さな電器会社の本社となりました。国は十年ほどそこにひっかかりがあって、今度は何をするのでしょうか、ともかく、そっちへのびるようすです。あの人とすれば、不鮮明な外観をとりながら、父の没後負担至極であったものを閉じてさぞ気が楽になったでしょう、半日ばかり開成山へ行くと出かけました。