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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
11 一九四四年(昭和十九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页
どうしてだろう、と考えます。こんな瑞々とした愉しさのたたえられたお正月の気分というのは。新しい年がおとずれる、というでしょう? 新年になった、というのと、年が新しくおとずれた、というのと、心持はちがうものなのね。大変ちがうものなのね。わたしのところには年が新しくおとずれたと思います。支那の昔の女の詩人のうたではないけれど、南に向うわが窓は、年久しくも閉ざされて、牡丹花咲く春の陽に、もゆるは哀れ緑なす草、という風なところへ一条の好信、春風に騎って来る、というようなところがあります。そのよいたよりというのがなんだときかれたら、わたしは何と答えることが出来ましょう。見えもしない、聴えもしないところにも、いいたよりがあるものなのを知っているのは、雪の下なる福寿草。
三十一日に、二十九日づけのお手紙がつきました。それを、食堂のこたつであけてよんで、あと働き用上っぱりのポケットへ入れて働きました。バルザックのほかによむものの話、そうだと思います。
この御手紙の前半にあることね。わたしは本質的には、しわん棒なんかの反対なのよ。しわん棒が義理のつき合いに骨折るなんて例は天下にありませんしね、詩を自分から溢らす人間がしわい性根ということもあり得ません。