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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
11 一九四四年(昭和十九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页
今が今、いつ来るかと兢々ともしていないわ。
余りわたしが意久地なしのようで相すみませんから、一通り弁明いたします。こんどは、例えば自分で気をつけもしない外套をわたしが何とかすると期待したりして貰わないようにするわ。先ず一人単位ということにするわ、ね。そうしたらあれこれの配慮がずっと簡単化します、ガラスだらけの家になったら靴ばきで歩いて暮すわ、ね。十何年も前の冬、本場でスケートの稽古をしようとして金のうってあるスケート靴を買いました。そしたら、肝臓の病気になって三ヵ月も入院しているうち春が来てしまって、その靴は、籠に入れられて帰国したまま先達ってまで、新聞にくるまれて居りました。もう無いと思っていたのよ、それが出て何とうれしいでしょう。本場で寒中用、スポート用ですから内側が暖く出来ていて、編上げだから丈夫ですし。底が、釘のあとの(金をとってしまったあと)小さい穴があって、本当は、ワックスでもぬった方がいいのでしょうが、この間、そちらへ一度はいて行ったら、小さい穴もいい工合に泥でつまったみたいです。
体つきから云っても、わたしは烈婦ではないかもしれないけれども、少くとも勇婦ではあり得そうです。