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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

11 一九四四年(昭和十九年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页

青空文庫

その先住人は、牛車馬車をつらねて故郷なる岐阜へ引あげたところ、本郷にはまだ一発も着弾いたしませんが、あちらにはもうパラパラ。おどろいて居りますって。そうでしょう。この頃の人と住居とかくの如し、ね。寿江子の方もやや同じわけで、どこかへと思いますが、あのひとはもう当分あすこを動かないつもりのようです。今あの年ごろの女のひとは挺身隊召集をうけ、寿は、あちらならば、女学校の音楽の教師をすることが出来、生活的にも基礎が出来ていいらしいのです。どこにいたって、と目下のところ確く心をきめて居ります。経済事情も安定していないから、女学校にでもつとめて月給をとり、勤労報国隊の方も兼ねるというのが、あのひととしてはいい方法でしょう。

東京その他、そういう便宜のないところで工場働きはあの健康がもちますまい。大分丈夫にはなって居りますが。寿のこの頃の雰囲気は、何となし寂しい人(本人がそう感じているいないは別として、よそめにうける感じとして)のところがあって気になります。光沢がうせて。あのひとの光沢は、何と云ったってゆとりから丈のところがありましたから。今の家は電燈もないのよ、都会風の意味では障子もないのだって。