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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

12 一九四五年(昭和二十年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,583 字 · 240 页

青空文庫

このひとはこういうこころもちの男です。〔中略〕「先生がいてよかった。おくさん一人かと思ったんで」と汗ふいていました。大変うれしゅうございました。

六時になって朝飯炊いてみんなにたべさせ、出かけるものは出てしまい、わたしとペンと其から一寸眠りました。久しぶりだったせいでひどく疲れました。午後は眠りたいけれ共夜目がさめると困るので床につかず。〔中略〕台所の手入れをし、それからこれを書きはじめました。ボーとなっていても台所は出来るという発見をして、台所やるようになったのだからわたしも練達したものです。人造石の流し、斜に光のさす窓でものを洗っていると、ああ江場土の井戸端が恋しいと思われました。あの空気、あの青天井、水の燦くしぶきのこころもちよさ。雨の日は大困却だったのですが、それは思い出さず。くたびれて猶あの美味な空気を恋いわたります。

江場土での暮しをこの間申しあげましたが、あの間にね、ハアディーの「緑の樹蔭」という小説をよみました。無名時代に書いたものでハアディーが半分はまだ建築家だった頃、しんから時間をおしまず村の聖歌隊の老若の男女の生活を描いたものでした。