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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
12 一九四五年(昭和二十年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,583 字 · 240 页
北海道に梅干はないのですって。農家では生活出来ませんが、その辺に常呂とかいうところがあって、そこいらからゆく温泉があるらしいのよ。大変好奇心があります。九月中旬まではすこし山の中でもいられるでしょう。わたしの湯恋いをお察し下さいませ。
よほど久しい前、室蘭や虻田辺からずっと新冠まで行ったりした頃、わたしはアイヌ語がすこしわかりました。今でもおそろしく細かい断片がのこって居ります。札幌のバチラー博士[自注18]がアイヌ語字典をつくりました。パール・バックの「戦える使徒」の父とはすこしちがったのね、対象も全然ちがうから当然ですけれども。ロンドンに戻れば気の毒な浦島の子であったこの老人はどうしたでしょう。
袋のような口をして黒い髭が二本黒子から生えていた夫人はその頃もう大変な年で、何でも銀でこしらえたものが大好きでした。父が博覧会の用事で行く毎にボンボン入れや小箱をあげていつもホクホクしていました。このお婆さんが、博士夫人になる前、何とかシャイアの淑女だったとき描いたという水彩画がありました。新しい何かのものをもって札幌に来た二人は尊敬され乍ら、お祈りをしてイギリス生粋の酸っぱいルーバープに牛乳かけてたべているうちに、日本はこの人々を消耗して、からをイギリスに戻したのでしょう。