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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

12 一九四五年(昭和二十年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,583 字 · 240 页

青空文庫

しかしこれはわたしの少女時代からのもちものよ、ありがたいことだと思います。そういう能力が、あらゆる面に入用だと思います。

本と云えば、そちらの本どういう風に御入用でしょう、今月の一枚の封緘は、きっと島田へ行きましたことでしょう。何をお送りいたしましょうね、〔約百五十字抹消〕

メリメはナポレオン三世の側近者だったって? そう? つまり彼のあわれな木偶としての境遇の目撃者であったというのは本当かしら。「柳の衣桁」の教授が書いたものの中に出ますが。アナトール・フランスは、この部分で「人間に対する好意ある軽蔑」というような言葉(要約)をして居ります、ここのところが、この作家の臍ね。ゴーリキイはあんなに(「幼年時代」その他)おそるべき無智、惨酷、苦悩を描きましたが、そこには一つも好意ある軽蔑というような冷やかなものはありません。ひたむきに対象に当って居ります、描いて居ります。一歩どいてじっと見ている、と云う風はありません。アナトールという作家は明るい頭によって洞察は鋭く正しいが、荒い風に当らず育った子供らしく、ちょいとどいているのね、目ではよくよく見ているのだけれども。