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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

12 一九四五年(昭和二十年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,583 字 · 240 页

青空文庫

その志が小規模にあらわれてこの開成山の事業となったわけでしょう。うちでは代々地図をみる血統よ。父は若い時イギリスに行きたくてベデカーでロンドンをすっかり勉強していたために、父親が洋行帰りという詐欺にかかったのを神田の宿屋まで追っかけて行って金五十円なりをとりかえして来たという武勇伝があります。ベデカーのロンドンとその男の話すロンドンとでは違ったのですって。(一高時代のこと)

おじいさんは、孫娘が、こうして北海道志まで計らぬ虫干しをして眺めたりすることのあるのを予想したでしょうか。札幌鉄道局の地図をみると、旅行者がいろいろ思いがけない間違いをしないように、必要な色どりが特殊区域にほどこしてあります。それをみると、わたしの切符のむずかしさが身にしみます。特に本月に入ってからはね、九日以降は。

わたしはこうしているうちに段々一途な気になって来ます。どうしても行かなくてはすまない気がつのって来ます。その気分は、段々自分の身が細まって矢になるようなこころもちよ。雲になり風になりたいというのではなく、一本の矢となるようです。それは一条の路を、一つの方向に駛ります。