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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

12 一九四五年(昭和二十年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,583 字 · 240 页

青空文庫

東京なら広うございますけれどもね。

七月には三日に手紙かいて下さいました。きょうは三日ね。やはりそちらもこんな秋晴れでしょうか。そして手紙書いて下さったのかしら? こちらもこの一週間ほどは夜冷えてすこし厚いかけものを出しました。今、もって行く薄どてらを縫って貰って居ります、夕方なんか羽織がいるのではないでしょうか。海はどんな色でしょう。二、八月というから九月の海は荒いのでしょうね、濤の音が聴えるでしょうか。風の音が二百十日後は変りました、乾いた音がきこえはじめました。

竹越三叉の『二千五百年史』の四十二年版が焼けのこりの古本やにあってもって来ました。箕作元八が西洋史を扱ったのに似た方法ですね。文章が文語ですが弾力にとんでいて、やはり箕作の談論に似て居ります。三叉という人は一種の人物でしょうと思いますが、年代がずっている故か、環境がずっている故か(慶大関係)すっかり歴史の中にしかきこえない名のようです。三浦周行の『法制史研究』は面白そうなのに下だけしか買えませんでした。風邪をおひきにならないようにね。

〔欄外に〕○郡山の市は本やがありません。

九月四日 〔網走刑務所の顕治宛 福島県郡山市開成山より(封書 書留)〕