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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
12 一九四五年(昭和二十年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,583 字 · 240 页
雪はそんなに日本らしいのね。五月の新緑のときの、灰色空の嵐、驟雨、ぬれた街路樹の青々した行列、稲妻、そんな風情はこってりとした濃い感覚からどうしても油絵でしかあらわせません。日本の美術は春嵐という六月は描けたが、人を夢中にする五月の嵐は余り表現いたしませんね、そういう自然の横溢が美しくてこわいような裡を、わきにいる人からうける安全感に護られ乍ら、顔を雨粒にうたせつつとっとと歩いたらどんなに爽快なことでしょう。こんなに書いて来たら、到頭とっておきの白状をしたくなりました。云ってもよくて? それはね、わたしは自然のいろいろの様子がごく好きです。霜のある夜や月明の夜、野原を歩いて見たいと何度思うでしょう、市街の夜更けや明け方も面白いわ。そういう心からの歩きをしたいとき、わたしは傍に自分の影しかないことを痛切に思います。わたしは、臆病というより自分の身に責任を感じるから、所謂物好きは決してしないたちでしょう? 危険においても人的組合わせにしても。そういう歩きに、つれだって歩いてほしい人がほかにどこをさがして在るでしょう?
ブランカの慾ばりは、大より小に至る千変万化ですから、御苦労さまね。