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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

12 一九四五年(昭和二十年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,583 字 · 240 页

青空文庫

しかし、それらのまことに些細な慾をもみたしてやったらさぞ愉快だとお思いになることでしょうね。

きょうは、何となしなめらかな感情の肌の上に、ほの明るく雪明りがさしているような工合です。どうも久しぶりであざらしのようにお風呂に入って、そのさっぱりした皮膚に、雪の白さや雪明りの空気の快よさが作用し、おまけに夜中起きずに十二時間眠った休息が及ぼしているらしいと思います。

やっと一人になってのうのうして、おまけに雪でしょう? 人も来ず。ね、それに、一緒の細君がやっと居馴染んで来て、私の気風も分って、安心しはじめ、日常的な用心をゆるめて来たので、何となし平滑な日暮しになって参りました。これから、わたしが仕事する、ということに馴れて貰うと、万事好都合ですし、御主人が在宅なら夕飯後は自分たちのところへ引こもるから、わたしは一人で呑気。でもね、ごくなみの意味で、いい方という一括的結論に到達させるまでには、こまごました朝夕の心くばりが多いものね。そして喋るということさえ何と一つのおつとめでしょう。安心して云わないでいいことを云わないで暮せるようになる迄には。特に女のひと対手の場合。