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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

12 一九四五年(昭和二十年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,583 字 · 240 页

青空文庫

ものね。わたしははいバルザックさんと見せてやりたいのよ。人類の、こういういくつかの典型を、あなたはどこまで描けますか、と。わたしは、バルザックが困惑するだろうと思って大いに笑えるのよ。彼も大きい心情により、その強壮な心臓によって、気品にうたれるでしょうと思います。しかし彼にその気品の再現は出来ないわ。彼が生涯をその間に投じた利害の波瀾、地位の争奪、奸計のどこの糸をひっぱっても、その品位に到達する筋はないから。品位の解説をするものは、一見それと全く違った文飾ない現実でありますから。面白いわねえ。わたしは、その一葉の写真が、これこそ現代史と呼ばれるべきと思いました。

こういう写真が、こんな粗末な、刷のわるい新聞に出る、現代は正にそういうときなのです。

そして、わたしは、十八の少女のように、自分もどうか気品ある人間になりたいと渇望を感じます。十八の娘は、そう感じる丈です。が、今のわたしは生活によって、そういう気品の価値はいかに高いものであるかを学んで居りますから、その渇望はひとしお切実であり、謙遜であり、且つ執拗です。ねえ、ほんとうに精神の輝は何と覆えないでしょう、才能だの、賢こさだの、というものでは到底輝き出せないつやと品位がとりかこんでいるような、その立派さの極単純になっているそういう複雑さ。