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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

03 一九三六年(昭和十一年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 50,453 字 · 101 页

青空文庫

何かが私の内部で芽をふくらしい。そういう予感。

二十七日の午後。

さあ、きょうはこれを書いてこの手紙は出すことに致しましょう。きのうはゴーゴリの「タラスブリバ」の試写を見て面白かったし又いろいろの感想もありました。国男は安積へゆき、家は至ってしずかになりました。家へかえってからはじめて音のない生活です。大変楽です。頭がよく働く。(今短い感想を書いたところ)鶴さん夫婦は日にやけていずれもまっくろです。私はその傍にゆくと心持がわるいほど白い。きょうも毛布のことが電話で通じられました。すぐ送ります。私は大変お手紙を楽しみにして、着くのを待って居ります。

[自注18]愛情のこもった遺物――建築家であった百合子の父は一九三五年ごろ、百合子の住む家の設計図をいくとおりも作った。百合子にも住む家ぐらい何とかしてやりたい、と。百合子は、それが実現するとは思わず、またそれを維持してゆく経済条件がないから、家をつくることを希望していなかった。しかし、そのプランのどれにも、父は顕治が使うための室を割りあてていた。いつも、二人が住む家として考えていた。家は、実現しなかった。