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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

03 一九三六年(昭和十一年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 50,453 字 · 101 页

青空文庫

ふたたび市ヶ谷にかえり予審中、二・二六事件が起った。三月下旬、保釈となった。百合子は慶応病院に入院した。保釈の際、判事は二・二六による戒厳令下の事情によって百合子の公判が終了するまで顕治への面会通信は控えるようにといった。

六月二十六日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕

二十六日の夜。九時  第一信[自注2]

今、二階の北の長四畳の勉強部屋でこれを書きはじめようとしていたら、太郎がアァアァアとかけ声をかけながら、一段ずつ階段を登って来て私の膝にのり、しばらく色鉛筆でモジャモジャとやってから、となりの広間の大きい写真の前へゆき、さかんに「おじいちゃまにこーんちヮ」をやっているところです。

二十四日には、本当に本当に久しぶりでした。あまりいろいろ激しい生活の変化がこの一ヵ年間に生じたので、かえって何も申せませんでした。私は慶応病院に三月下旬から一ヵ月入院していた間に、あとになってお目にかけようと思って、毎日暇なときにポツポツ手紙のようなものを書いたのですが、時がたつとそれもやっぱり手紙としての役に立たないことがわかりました。

とにかく、私の顔と声と眼の艶を御覧になり、あなたはきっと安心して下すっただろうと信じます。