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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
03 一九三六年(昭和十一年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 50,453 字 · 101 页
薄いのがよかったらこの次はそれだけにいたしましょう。本は比較的軽いもの、だが面白そうなものを『日本経済年報21』とともに送りました。あなたの帯はもうぼろぼろになりましたろう? はじめからあれはやすものだったですものね。この次の手紙のとき、そのしおたれ工合をお知らせ下さい。今年の夏、私はやはり東京を離れない予定です。何とかして、すこしはさっぱりした一夏を送らせてあげたいと思います。去年も一昨年もひどい夏でした[自注5]から。
父のことについて私は特別あなたにどう書いてよいかわからない。短い言葉で表現すれば父は父として最もよい生きかたをしたし、なくなりかたをしました。父と私との心持の相通じていた程度の濃やかさは御存知ですが、父は自分の死によってまで、かえって私たちに生活力をおこさせ、人生の正道を愛す心を深くさせる、そういう生活を営みました。よく世間では急な永訣のとき、虫が知らせるとか、或る徴候があるとかいうが、父と私との場合、ちっともそんなことはなかった。それはまことに愉快です。そんなこみ入った心霊的技巧がいらないほど、生命が終る途端まで互の結びつきは充実していて、云わば死んでも死なぬ有様なのだから。