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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
04 一九三七年(昭和十二年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,810 字 · 225 页
この二階は六畳きりで二間南があけっぱなし。東の方へ机を向けないと形がつかず、そうすると右手の書いている方から光線が入って紙にかげをつける。南へ向ってはのぼせ過ぎますから。――
私は勉強部屋だけはすこしゆとりがあってその部屋の中をいろいろ考えながら動きまわることの出来るところが欲しい。本気になって来ると私はひとと話もしたくないし顔も見たくなくなるから。
島田へは年内に是非ゆきます。十一月に入ってゆけるようになるだろうと思います。フタの浮いたお風呂を思うとクスクス可笑しい。全くあれは奇妙なものね。あの風呂は長湯出来ない。心持から。あなたの烏の行水も子供のときからああいうお風呂だからではないでしょうか。
高校の賄のことその他は訊き合せて見ましょう。この二三日持って歩いて大仏次郎の「由井正雪」をよみました。前、中、と。これはこの作者の傑作の一つです。最近「雪崩」を出したが、こういう現代の性格を扱うと破綻だらけでポーズが見えて、大衆小説というものが本質にいかに非芸術性を含んでいるかということの悲劇的典型に見える。しかし、由井などは筆もこまかく心理もそれなりにふれていて、筋の説明ぬきの飛躍、あまりの好都合等を許せばなかなか面白い。