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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

04 一九三七年(昭和十二年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,810 字 · 225 页

青空文庫

十一月二十四日  第三十九信、

きのう、夕飯後十枚ばかり「若い婦人のための書棚」をかいて、終ってお風呂に入ったばかりのところへ「光子さんがいらっしゃいました」「どの」「岩松さん」絵かきの光子が来た。雨が降っていて十時半頃で、さては神戸から出奔して来たかと思ったら(夫婦ゲンカをやっていたから)そうではなくて、一水会という石井柏亭や安井曾太郎のやっている会へ絵をもって来たのでした。夜、二時頃までいろいろ絵や文学や女の生活の話をして、けさおそくおきてかえった。月末までいるというので、私は自分の大好きな動坂の家のスケッチと、本郷の或高台、一方は長いコンクリート塀になっていて、ずっと遠く小石川を見晴す風変りな道のスケッチ、をして貰うことにしました。私の勉強している部屋にこういう可愛らしい都会の隅々の絵があったらどんなにうれしいでしょう。大変たのしみです。其にしても光子は、自分の絵の道具をもって来ないとはけしからぬ。かりにも十日ばかり東京に来て、しかも刺戟を与える人々の顔を期待して来ていながら。まだただのおかみさんと画家とが分裂している。渾然一つになっていない。