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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
06 一九三九年(昭和十四年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页
ように思います、一九三〇年頃から昨年ぐらいまで)その範囲で、「健気な」執筆をもしていた時代。勿論そのときはそれで精一杯であったのですし、そこにある反面のものにも心付かなかったのですが、去年の冬、それから暮以来(あの大掃除を区切りとして)これまでの自分が作家としてもっていたプラスとその反面のものが見えて来ました。だから同じぐらいの短篇を考えても、これから書きたいと思っている気持から例えば「小祝の一家」ね、あれをよみかえし考えかえして見ると、今の自分には沈潜度が不足していると感じられます。では何故沈潜度が不足していたかというと自分が認めるより正しさよりよいものへ向う面と、その一方自分にまだまだあるところの負の面とのいきさつがじっくりとわが胸に見られていなくて、現実に前の方の目だけでぶつかっている、そのためにあるよさはあるとして、足りないものがある、芸術品としては。つまりあの一篇の中に「忘られない或もの」というものがあるでしょうか。それだけ突こみ、迫り、描き出したところがあるでしょうか。ここが面白い。作品にそういう奥ゆきが出るということ、味のあるということ、それはとりも直さずその作家が自身の心にもっている複雑性の把握の厚みの反映ですから。