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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
06 一九三九年(昭和十四年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页
熱は六度から六・六です。大変きっちりとして来て、入浴から上ったすぐ後六・八位が頂上です。傷は二センチほどにちぢみました。木村博士笑って曰ク「こんな小さい傷口で虫様突起をとったなんてうそだという人があるといけないから、一遍出たのを見ておおきなさい」その位です。そして、傷の下にあいている小さい穴も大分肉が上って来て、浸潤もごくすこしガーゼについて来るだけになりました。今度は全く驚くべき好成績です。木村先生も大いに御満足で、今日は、その大きいおなかの小さいきれいな傷の記念写真をとりました。外科医にも制作的情熱は盛でしてね、先生は忙しいのにわざわざ室へ来て、小さい物尺を傷の横に当てて持っていて、写真をとらせました。「記念のために一枚あなたにもさし上げます」そういう傷なのです、ただの傷ではないと申すわけです。
体の疲れもいろいろにやって見て、大分直りました。七日ごろ退院と思って居りましたが、まだ疲れ易いし、そとを歩きたいという欲望全くないし、するから、十日までいて、浸潤もすっかり乾いてからかえることに今日きめました。折角かくの如き大成功だのに、文字通り針の穴から妙な失敗をしてはくやしゅうございますから。