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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
06 一九三九年(昭和十四年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页
悠々構えろというあなたの標語をここでこそと守るわけです。家へかえっても何処へも行かないだろうと思います。というのは、国府津へ行ったって目白より入浴が不自由だったり食事が自分の負担になるし(としよりの女一人留守していて、そのひとは頭がよくて、私が一人行くと、自分が体が変になって休むの)さりとて温泉へ出かけるのも進まず。去年行った熱川は行きたいが、バスが一時間以上ですから無理だし、熱海、湯河原は気に合わずですから。かえって、又例の十時就眠を実行すれば結構だと思って居ります。それに病院を出るようになれば、私のための恢復薬は特別品があるのだから、東京なんか離れるよりその薬をよくよく眺めて、聴いた方がずっと利くこと確実です。今でさえ、そう思っている次第です、ああこの病院は万事到れりだが肝心の薬一つが欠けている、と。しかも、その薬こそ私を生かしも殺しもする力をもっているのに気付かないとは何とうかつでしょう!
島田では隆ちゃんの出立ちが迫っていて、さぞおとりこみでしょう、この間お母さんからスタンドや何かのお礼とお見舞の手紙頂きました。お母さんのスタンドは日本の手提行燈の形の、白絹を黒塗のわくに張ったもので、よくお似合いになるだろうと思います。