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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

06 一九三九年(昭和十四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页

青空文庫

俗人気質は全く通暁してよいものだが(作家として)自身の俗人性は、これ又本ものの作品の基調と両立しないものです。文学上のこの点は少しこまかに考えると面白うございますね。久米正雄は文学者というものは一般の大衆より一歩先を歩いていなければならないが、決して二歩三歩先を歩いてもならない、というような彼らしきことを云って、その例として漱石、ゲーテ、トルストイ等あげていました。(よほど前)凡人らしさで衆凡との共感が保てるというわけです。共感ということがここではもっと詮索を要しましょう。もろともに泥濘をこがなければ(現象的に)ならないというのでは、直さんです。泥濘のあるのが現実で、そこをごたごたやっているのが現実だ、そうい直れるものではないわけですから。いつぞやの手紙でふれた小説と神のような心の話ね。考えて見ると文学もジタバタですね。作者の眼のひろさ、高さ、複雑さは、何かこれまで共感のひろさ、複雑さといくらか別なもの、判断力ぐらいの範囲で云われていた傾きがあり、従って共感というと現実主義に傾いて、自分にも対象にも溺れる甘える結果を来している。日本の純文学が私小説となり、今境地小説として出ているのとこのこととは、なかなか深い因縁がつながって居りますね。