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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

06 一九三九年(昭和十四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页

青空文庫

そういう意味での立志伝中の人。なかなかデリケート。「わが道に立つものは容赦はすまじ」というような復讐的闘志が熾であるのは、一寸類がないのではないかしら。そういう性格も心得て、大局から見てそろそろとやりましょう。要点をつかんで、のみこんで下すったことを、私がどんなに吻っとしたかお察し下さることが出来ようと思います。

天気がからりとしていたし、昨夜は、寝汗余りおかきにならなかったのでしょうか。皮膚の工合すこしはましに見えましたが。こまかい期日にかかわらず加養なさること、全く必要であるし当然です。どうぞのんびりと願います。

きのうの雨! 家じゅうたらいだのバケツだの、洗面器からおなべまで出動し行列をつくりました。その雨の中を徳さんが、したたるばかりに濡れて来ました。北京へ勤め口がありそうで行く由。柳瀬さんの心配の由。「そして、奥さんは? 一緒?」「いや、あれは国へかえります。」国のことは先話にきいていてかえれるわけのところではないのです、本当の生活を考えれば。そこをとび出して、東京で働いていて、結婚したのだから。

徳さんと生活するということを断念してしまったのですって。