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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

06 一九三九年(昭和十四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页

青空文庫

これから二週間ばかりはここで仕事をし、手紙をかき、暮します。

これは父が事務所でつかっていたテーブル。『中條精一郎』の扉についていた写真、あのテーブルです。堅木のごくあり来りのテーブルに右手へ小さい張り出しをつけてあります、折畳式の。それを上げると四尺ほどになって、ものをひろげるのに好都合です。下の足をかけるところの横木など、父の靴にすられて、塗料はすっかりはげているし木目立っています。こうして、向ってかけるとなかなか落付きます。南縁の前に大きい青桐。

お工合本当にいかがでしょう。呉々も呉々もお大切に。ユリは、この頃、人物ということについて様々に考えを刺戟されています。勿論自然発生的な意味ではなしに。しかし、そういうごく綜合的なものが陶冶されてゆく過程というもののむずかしさについても。どうして人々は多く、ああいう、こういう、と云うことに何かその者の本音があるように思うのでしょう、ああいうこと、こういうこと、その底に本音があるということをどうしてすぐあたり前のこととして理解出来ないのでしょう。事物に対する正しい把握は人物というような概括で云われるものではないが、正しく把握出来る真理への洞察力をその人がどう身につけているかという面からは、やはり人物ということが云えることを深く感じます。