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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
06 一九三九年(昭和十四年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页
もとより、作家でも評論家でもなかったのだけれども変りかたがね、平民のなかで暮していず、或種の選良の環境はああいう作用をするのですね。
おや、コトンコトン足音が二階へのぼって来た、太郎です。咲枝は昨夜から病院、まだ生むか生まぬか不明ですが。太郎はこうやって机の前で「御勉強」している人を見るのは大変珍しいのです、うちにそういうのはいないから。前の廊下で揺椅子をひっくりかえして、「あっこおばチャーン、見て御覧」とやっています。そこで私が曰ク、「ね、アボチン、御勉強しているのに、そっちばかり見ると御勉強が見えなくて出来ないだろう、だから駄目だよ」。この頃幼稚園で『キンダーブック』というのを貰って、蟻の生活の話など覚えはじめました。葛湯こしらえて、「白いコナがジャガいもからとれる」というと「フーム」とおもしろがっている。太郎は早く兄さんにならないといつまでも一人立ちしないで、悧巧のくせにひよわで、依頼心がつよいから。
本月は読書は、先月よりひどいことになって居ります。けれどもそれを補うというよりそれに十分代る他のものがあったわけですから、御諒承下さることと存じます(いやに丁寧になったこと!)。