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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

06 一九三九年(昭和十四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页

青空文庫

そういう美しさがなかったとしたら、失われたとしたら、私はきっと、ユリは元気そうでと云って頂けないでしょう。詩の歴史が回想されると云われて居ります。けれども、芸術の神通力は、それをこの瞬間にもたらしますから、だから、作家であってよかったと沁々思うわけです。それは全くリアルです。一刹那の耀きでも、ぱーっと景色と色調と交響する音の全部が見とおされます。そういうたのしさ。そういうものが生活をいやし、新しくする力、それは実に大したものです。そうお思いになるでしょう? 年毎にそのことがわかって来ているでしょう? より深い休息とあなたがよんでいらっしゃる、その通りね。私たちの生活の中で、それは決して決して過去の文法では語られません。これも何といとしい私たちの現実でしょう。そういう点でも、ユリは、お互にとっていい芸術家になろうと思います、こんなに自分たちの生活を愛していて、そして、ねえ。

床に入って、雨の音をききながらやすみます。

明後日お目にかかります、お大切に。あら、土曜日ね、ではもう一日さきになります、本当にお元気で。

[自注27]山口さん――山口弁護士。

[自注28]御老母――蔵原惟人の母。