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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

06 一九三九年(昭和十四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页

青空文庫

図表をつくる仕事。いくらか小遣いをもあげて。

きょうは荒っぽい、落付かない天候でした。南風つよくガラス戸ガタガタゆすぶるから、まるでむし暑いガラガラ(子供のガラガラというおもちゃ)の中で仕事しているようでした。でも今年の冬は炭も不自由でしょうから(水道、瓦斯、電気、もう制限がはじめられています)暖い室というのは大事です。

あなたの方の詩の本は、この頃どのあたりが読まれて居るでしょう。きのう、不図ひらかれた頁に、眼を瞑り、喉をふくらませ、我を忘れた心持でのみほす朝の牛乳、が描かれていて、感覚の鮮やかな描写におどろきと傾倒を新しく感じました。口のなかにある感触を、何と微妙に、即物的にうたっているでしょう。生命のあこがれが、何と優しく激しくあらわされているでしょうね。こういう詩をよむとき、生活の深い深いところがひらかれて、よろこびの厳粛さがてりかえします。では水曜日に。手紙こちらへ、どうぞ。

九月二十二日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

九月二十二日  第九十信

金曜日に見えましたか。私がお話の趣つたえたときには横浜へ行ったという留守でしたが。