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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
06 一九三九年(昭和十四年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页
ことだったのですって。大きい行李が先へついて、「セルのいる時になったら又送ってやる、いて来い」とお母さん(野原)の話の由。それなら気が落付いて大助りです。やっぱり半年もいて洋裁ぐらい一通り覚えてもよいという気らしい風です。Kの話は出ません、私からは特に切り出して話すということは致しません。こちらの生活でどんな風に心持が変ってゆくか、又変っているのか、それらのことも今に自然に自発的に話として出て来る迄は。今までその一つのことにこだわってやり切れなかったのだから、すこしそれとはちがった生活のひろがりにあってもいいでしょう。
きのう(二十二日)は私くたびれが出て。やっぱり日頃子供のいないくらししていると、子供はつかれるのね。おっかさんがひどく気兼ねするので、それをさせまいとしてやはり自分がつかれているのね。朝のしずかなのがいい心地で、いい心持で、二度ねをしておそくおきてしまいました。(お目玉? まさか、ねえ)それに多賀ちゃんも元気で安心したし。
それから新宿へ出て用を足して、それから慶応へ行って、眼科の部長のひとに多賀ちゃんの黒子を見せたところ、やはり狭いところで深いから切ってとると、どうしてもひきつれになるというのです、このままにしておいた方がよいという意見です、ホラね。