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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
10 一九四三年(昭和十八年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页
そちらに行くことも、では、仰せを畏み、あせらずに居りましょう。(ここで溜息をつきましたよ〈筆者註〉)家のみんなも心配しているし、なかんずく、目前の筆者は、行くなとは云えず、安心もせず、私が出かけると云う日には、旅行に出ようかなどと云う有さまだから、本当に急がない方がいいのかも知れないわ。ただ、あっちに火柱が立ったり、こっちに煙が出たりする時のことを考えると、あなたがそのお守りと云うわけではないけれど、何だか一目見ておく方が惶てかたが少なそうに思えるのよ。ゆっくりと云えば秋位になってしまうかも知れないわね。今年の夏ばかりは東京にいる勇気がありません。あなたもおおめに見て下さるでしょう。いずれにせよ決して突然現われると云うような趣味的なことは致しませんからそれは御安心下さい。
『人間の歴史』、目白から貰ったけれどまだよみません。「私」と云うものを知らないと云う点、古代人と現代の良識との間には何と云う本質の大きい相違があるでしょう。ルネサンスから二十世紀迄の「私」の歴史が蓄積して来た人間の宝としての大きさ、それから更に拡大した自分としての「私」の無さ、それは漱石が「明暗」