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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

10 一九四三年(昭和十八年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页

青空文庫

それに、そこまで自分を鍛えられるほどの底深い情熱をもち得る対象にめぐり合えるか合えないかということもまことにこれこそ千に一つの兼ね合いですものね。めぐり合ったとき、どうせ自分は未熟きわまるもので、もしもその対手がそこに可能を見出さなければ、それきりのことですもの。相互的というところもあるにはありますけれども。

きょう、かえりに、あの辺はお祭りで、町の神輿を献納するための最後の祭りでした。花笠だの揃いの法被、赤い襷の鈴、男の児の白粉をつけた顔、まことに珍しく眺めて停留場へ来たら彼方に一台電車が留っていて動かないのよ。子供をひいたという声がします。子供の大群がそちらの方へ駈けてゆき、男の大人が一人シャツだけでワッショイワッショイと両手で子供の群を煽って亢奮して駈けてゆきました。きれいな祭着の女の子たちもまじってゆくの、かけて。

その子はいいあんばいに小さくて車体の下へころがりこんで命に別状なくてすんだ由。でも秋日和に照らされて電車は動かず、王子の方へゆく電車で大塚まで出て市電でかえりました。菊富士に部屋もっていた頃、目白へかえるのに大塚終点までよく来たので、独特な視線であのあたり眺めました。