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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

10 一九四三年(昭和十八年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页

青空文庫

のようなものです。その道に当っていたらしいのですね。そのギリシアとペルシア支那文化のとけ合った全く独特の都会というのも。三蔵の大旅行の時代には在ったそうです。

「金髪のエクベルト」早速よみました。いかにもドイツの話ね、あの白っぽいドイツの金髪の色と灰色とみどりのような配合の物語ね。

因果というようなモティーヴを兄妹の恋という形でつかまえるのは東西同じね。歌舞伎のお富と切られ与三郎の芝居で、お富は自分を救ったのが兄と知らず、どうして落城しないかと盛に手管をつくし、あんまり固いのでやけで与三といきさつを生じ、旦那たる兄から打ちあけられる場面があります。でもそこが日本の世話もので、金髪の騎士のような手のこんだ魔法は作用していないから、お富が「因果のほどもおそろしい、わたしゃあまあ穴でもあったらほんに入ってしまいたい」と袂で顔をかくすところを梅幸はうまくやりました。あの物語はドイツの空想の特徴が出て居りますね、風景の描写にしろ。面白いけれど、好きというのではないことねえ。きょうはこれからひるねをいたします。

九月十四日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕