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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
10 一九四三年(昭和十八年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页
きのうの夜から、私の心も体も充電されたようになっていて、それはとても自分一人で沈黙の中に消しきることが出来ません。それらはどれも私から生れることを希っているのですもの。その希いは余り激しくてね、私を休ませないのよ、燃えたたせます。物語や断章やになって、それらは翔んでゆきたいとあせっています。
その一つの物語。
山と谿谷の景色の非常に美しい崖に一つの城がありました。山はなだらかに高く、その上にはひろい天がかかって居ますし、谿谷の襞は地球が熱かった時代の柔かさと豊かさを語るように幾重にも折りたたまれ、微妙な螺旋を描いて、底の川床までとどいています。景色の美しさにもかかわらず、そのあたりは自然の深さのなかにかくまわれていて、人跡が絶えています。山と谿谷を明るく又暗くするのは日毎にのぼって沈む太陽と、星と月ばかりでした。川床に流れる水は、常に清冽で、折々見えない力にうながされたようにその水量が増し岸の草をも燦くしぶきでぬらします。しかしその濡れ、きらめく草の愛らしさを見るものは、やはり人間ではありませんでした。大抵は月ばかりでした。
崖上の城はいつ建てられたのでしょう。