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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

10 一九四三年(昭和十八年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页

青空文庫

シェクスピアが最大の人間通であるとし、彼の全作品のテーマは常に何かの「誤解」である、そこからの悲喜劇であると云っています。「オセロー」ね、あの女主人公と主人公との間の誤解、「リア王」の誤解、しかし現代の人々はああいう単純な誤解の上にあれだけの悲劇は発生させず、従ってかけません。ああいう誤解そのものが生活から減っていますから。この点が私にはひどく面白いのです。時代と文学のテーマとの関係で。シェクスピアがあんなに単純な誤解、殆どおろかしき誤解の上に、あんなに人間性を乱舞させ得たのは何故でしたろう。それは「誤解」がその時代最も人間性を解放するテーマであったからではないでしょうか。交通の不便さ、しかも拡大された地球、発達しはじめた産業、しかし中世のしっかりした身分別。最後のこのものは、リアとコーデリア、オセロとデスデモーナ、人間と人間とを型にはめた関係におきますが、誤解はそこに加った人間の心の積極な動きとして生じ、そしてそれをキッカケに人間性を溢れさせました。意志の疎通の欠けたところからだけ誤解が生じ、(しかし誤解の生じるだけ型やぶりがあり、)=コーデリアの潔癖=それがシェクスピアの文学で典型の単純さでつかまれました。