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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
10 一九四三年(昭和十八年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页
これ迄も小説は一日七枚以上書けたことがなく、一夜で書きとばすと云う芸当はやったことが有りませんでした。然し、矢張り時間にはせかれていて、書く迄のこねかたが不充分だったり、書きつつある間の集注が妨げられたりしたことはあったと思います。この数年、それ迄は知らなかった時間的な緊張のなかに置かれて(心理的にも)今、こうやって体のために仕事を中絶までしていると云うことは、決して単なるめぐりあわせではありません。
スエコが目下開催中の明治名作展を見て来て、其処にあるものは、絵にしろ、彫刻にしろ、この頃出来のものとはまるで違って、観ても見あきず、時間をかけてみればみる程値うちが迫って来ると云う話をきき、初めて自分の外出出来ないことや、物のみられないことが口惜しく思えました。そこの事よ、ね。その奥行きとこくとは何から出るでしょう。作者が自身のテーマに全幅の力を傾け尽し、何処にもはしょらずテーマの要求する時間の一杯を余さず注ぎこんでいるからこそで、一寸した絵ハガキを見ても当時の人がテーマと題材に就てどんなに真面目に考えて居たか、一つも思いつきではなくて追求の結果であると云うことを明瞭に感じます。