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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
10 一九四三年(昭和十八年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页
そういう午後を知って居ります。国府津の大長椅子は。足の先だけ、一寸火の入ったアンカにのせて、却ってそういう時は、どっさり話すのね。話したことをおぼえていられなかったのは何とおもしろいでしょう。小さなあんかはきゅうくつでした。きゅうくつさは、今も愛らしく思われます。動くとそこからすべり落ちるという風に、小さい冬ごもりのけもののように、並んで小さい火の上にとまっていてね。ぬくもりはなおまざまざとあります、それは十二月のいつの日でしたろう。
「春のある冬」という題の詩がありましょう、もう古典となっているほど読まれ、年々に愛されて居りますが。
続篇に「この風は」というのが出るようです。第一章のはじまりは、飾りない素朴さで、この風はどこから吹いて来るのだろう、という句ではじまります。外景は冬枯れて、雪の凍った眺めです、灰色空がすこし黄っぽく見えるのは、西日のせい。木枯しが今途絶えています。木枯は北から吹きます。ふと、思いがけない南の方から、何か風がわたって来ます、ああでもそれは風とも云えないほどの大気のうごきです、が、そのそよめきは、雪の下の雪割草に、不思議な歓喜を覚えさせました。