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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
10 一九四三年(昭和十八年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页
ペーヴしてある道は真白くハレーションして閉口だし、混雑はこの頃言語道断だし、空からの到来物のことだけでなしに、田舎へゆきたい心持です。後者のことは物を書く人間に生れて来て、東京がそういう経験をするとき、そこから静安だけを求めて、どこへか行きたいという気はありません。まして動けるのは一人だという場合。自分だけがどこかに行くということを考えると寧ろ渋ってしまうのよ。しかし、ここでの生活は、なかなか複雑で、私の神経が相当いためられます。寿江子という人は大変特別だから、私がこの二三日のように工合わるくして床にいたりするときは優しく親切だが、すこし元気よくなっているときは実に鋭い反撥を示し、癒ってゆくもの、そして着々仕事も進みそうな者への反感をきわめて意地わるく示します、自分は決して快癒はしない病をもって生きているのが重荷なのだ、ということで。こんなに大筋をかいても一寸おわかりになりにくいでしょうし、又いい気持もなさらないでしょうが、それは冷熱こもごもの感じで、まだすっかり丈夫になっていない私には苦しいことなの。咲枝が腎臓をわるくしていて(泰子の過労から)先日も伊豆の温泉にゆき、明後日ごろから国府津へ子供づれでゆきます。