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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
10 一九四三年(昭和十八年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页
手記にかくこともないから手記もありませんでした。聴きとりが終れば病気にならなくてもそれで帰れるわけでしたと思います。「カテキズム」ですから話にのぼった作品の箇所へでもゆけば誰のかいたどういうものかと思うような字句であったろうと思います。検事が私の病気を知ったときすぐ執行停止にするからもうゆっくり静養しろということだったそうです。この検事はどこかの軍政官に転じ、本庁の係だった河野という人も南方へ行ったとかいうことです。それきりでずっと何の沙汰もなく、臨床の訊問もなく、検事拘留一ヵ年の一月が過ぎ、二月下旬に駒込の特高の人が来た時、私は自分がどうなっているのか判らないけれどもと質ねたら、もうこのままでいいんでしょうということでした。旅行に出るなら自分の方へ一寸知らせてくれればそれでよろしいとのことでした。検事局へ届けたり何かは不要とのことでしたから、これで一応落着し手を切れたものと理解しているわけです。
忌憚にふれるものを強いてかこうともしているわけでなし、私がものを書いてゆくことは原則としていけないというわけではないのです。『茂吉ノート』は著者が同じ頃からいろいろとごたついた最中に出版されたのですし、本年に入って新版を出しました。