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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
10 一九四三年(昭和十八年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页
鼻の高さひくさぐらいクレオパトラの本体に何のかかわりがあるでしょう。彼女はおそらく女性中の女性だったのです。ナイルをみなぎらす太陽にはぐくまれ、あたためられ、そしてそれを装飾して表現する立場をもっていたのです。装飾に眩惑されるぐらい英雄たちは或面魯鈍であり、自然の魅力に抵抗しかねたほど素朴でもあったわけでしょう。それにあの連中はみんな派手ずきな連中だったからね。どんな時代にも派手好きな人間というものの共通に担うめぐり合せはあるものです、プルターク先生はそこ迄見とおしたでしょうか。随分変転を重ねて其は現われる、例えばレオン先生の晩年のなりゆきの如く。
私は目下のところは余力なしで、ここに居すわりです。寿江子は来週海岸にゆきます。彼女は大変緊張して暮しているから却って私ものんびりするかもしれません、では又ね。
五月八日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(西芳寺の写真絵はがき)〕
きょうは七十九度ありました。暑くて苦しいほどだから、セルが未着でおこまりでしょうと思います。何とガタガタな一日だったでしょう。咲枝が出京して午後の短い時間に思いもかけず見つかった乳母をきめたりして四時すぎ嵐のひくように太郎をつれて行きました。