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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
01 一九三四年(昭和九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,990 字 · 30 页
女の児なら泰子というはずでした。この頃、仕事に興じて大体机に向って一日を暮しているのですが、この間いねちゃんがきて、もう日没近くであったが中井の先の下落合の方の野っぱらを散歩して、いい気持でした。その丘の雑木林の裾をめぐる長い道は東長崎の方へまでつづいているのだそうです。夕靄がこめている。その方をしばらく眺めました。その野原の端を道路に沿って小川が流れていた。その小川も東長崎の方へまでつづいているのでした。その夕方はいねちゃんも久しぶりで元気で軽々と歩いたし、よかった。女が文学の仕事をする。――芸術家その他として真に発展するためには様々の困難が家庭生活の中にもある。それが現在のような時にはのしかかってくる。気分的にそれにまけてはくちおしいからねと私はつよく云い、あのひともそれはもちろんそう思うのですから、今はもう自分から坐り直して元気になったのです。
ことしの大晦日は、どの友達のところもほとんど皆夫婦そろっているから、私は私のいないことで誰も寂しがらせないから、何年ぶりかで父とお年越しをしようかと云っているところです。お正月七日がすぎたらお目にかかりにでかけます。