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ばくおう
獏鸚
海野 十三
「新青年」博文館、1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,493 字 · 33 页
女は駭いて、一旦渡した密書をふんだくる、僕は周章てて、腕を後に引く……結局、さっき君が見たあの三角形の小さい紙片だけが手の中に残っただけ……。僕は生命からがら喫茶店ギロンから脱出したというわけさ……」
と云って帆村は、まだ火もつけていない紙巻煙草をポツンポツンとりちらした。が、急にくるりと私の方に振向いて、
「どうだい、君の力で以上の話の中から、何か『獏鸚』らしきものを引張りだせるかい」
「ノン――」私は首を左右に振った。「BAKUOOのBAの字もありはしない」
「やっぱり駄目だね。なんという六ヶ敷い連立方程式だろう。もっとも方程式の数が、まだ足りないのかも知れない」
「おい、帆村君。君は獏とか鸚鵡についても研究してみたかい」
「それはやってみたよ」と彼は不服そうに云った。「獏は哺乳類のうちの奇蹄目で獏科の動物だ。形は犀に似て、全身短毛をもって掩われ、尾は短く、鼻及び上唇は合して短き象鼻の如くサ。前肢に四趾、後肢に三趾を有す。胴部より腰部にかけて灰白色の一大斑あり、その他は殆んど黒色をなす。――この一大斑というのが、ちょっと気になるのだ。絵で見ると判るが(と彼は壁にかけた獏の写真を指さしながら)、胴のところで丁度接ぎあわせたようになっているじゃないか」