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たまとりものがたり
玉取物語
久生 十蘭
「別冊文藝春秋 第二十四号小説二十人集」1951(昭和26)年10月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,495 字 · 19 页
殿はうちつづく暑気に悩んでほとほとに倦んじられ、「おのれらは、そのうちにとばかりぬかしおるが、おれをば、ふぐり玉の下敷にして殺す気かのう。うちゃもう、この上は堪えてつかわさぬぞ」などとのたまい、桐の夏枕を掴み投げにし、大荒れに荒れたもうた。
そうするところに、殿のふぐり玉に殉死をねがうものが出てきた。戸塚が牛馬のふぐりに執刀を試みていることが、風のように洩れだし、施術が遅れるのはそのせいなりと独り嚥込みし、気の早いのから順番に願書を上げたものであった。
八月 七日 杉浦 三蔵 御側調役
同 九日 生島 孫太 取次下番
同 十二日 矢部国四郎 調役並
同 同 多門 孝平 物頭添役
同 十五日 石井久之助 使番並
殉死願は続々と出て、九月中には二十六人にまでなったが、もとより聞かれるような願いでないから、一、二日手許に止めて置いて、夫々に差戻した。そうすると、こんどは大槻や戸塚の帰途を擁して強請するものが出てきた。いちど出したふぐりが、たやすくひっこまされるかということなのだが、いきり立った荒れ玉をおしなだめるのに、大槻も戸塚も大方汗をかいた。