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たまとりものがたり
玉取物語
久生 十蘭
「別冊文藝春秋 第二十四号小説二十人集」1951(昭和26)年10月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,495 字 · 19 页
お目にかかって申しあげようではないか」と立ちかかった。戸塚は「それはわかっているが、奥の刀自さまは国学の造詣の深いお方だと言うから、生仲なことでは御納得になるまいぞ」と言うたら、大槻は「そのことだ。とても理で押せまい、欺してしまうのよ。まあ行こう」と、戸塚を誘って奥へ上った。大槻はかれこれと去気ない体で世間話をして居って、そのあとで急に思いついたように「万葉集の巻ノ七に、伊勢の海のあまの志摩津が鮑玉、取りて後もが恋の繁けんという和歌がございます。一般には、藤原ノ淡海公と志摩の玉取りの故事を読んだものと言うことになって居りまするが、わたくしどもは、あれを医学の歌だとして居ります。あまとあるは、海に潜る海女にてはなく、古は海辺の遊女の異名であった蜑を指したもので」。刀自殿は異な顔をして「それまた、変った御説よの」と乗出してこられた。すると大槻「往古は陸路の便が少なく、旅行はおおむね海路によりましたが、旅人の鬱を散ずるため、港々に蜑という遊女が居って、船が港へ入ると、小舟に乗り、あるいは岸に立って客を招んだよしでございます。伊勢の海の歌にある鮑玉とは人間の精髄のことで、男にあっては鰒玉、女にあっては鮑玉。