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げんだいにんじゅつでん

現代忍術伝

坂口 安吾

「講談倶楽部 第一巻第八号~第二巻第三号」1949(昭和24)年8月1日~1950(昭和25)年3月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,446 字 · 155 页

青空文庫

ヤヤ、第一、寝台の上にねている。

「ハテナ?」

おどろいて、身を起しかけると、

「危い!」

声がして、とんできて、支えた人々。彼はそれを見て、驚いて、声をのみ、やがて、ブルブルふるえだした。

かけよって支えたのは、彼の妻子ではないか。田舎へ疎開したまま、まだ東京へ呼び迎えることもできなかった妻子たち。

「いったい、どうして?」

「あら、おめざめ」

「イヤ、ここは、どこだ?」

彼の妻は笑いだした。目に涙があふれている。しかし、笑っているだけだ。

「わからないなア。ここはどこだ? お前は、いつ、来たのだ?」

「アラ、前に話してあげたじゃありませんか。それに、おめざめのたびに、毎日、たのしく話し合っていたじゃありませんか。覚えてらッしゃらないのですか」

「全然、覚えがないね。ええと、そうだ。わかった!」

菊松は膝をたたいて叫んだ。

「ここは箱根だ! 箱根の底倉だ! しかし、まてよ。あの旅館は、たしか、明暗荘と云ったな。あそこには、ベッドはなかったぞ。ああ、分った。ボクは病気をしたのだね。ここは箱根の病院だ。昨日まで、箱根にいたのだから。しかしもっと眠ったかな。二日ぐらい眠ったのかね」