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げんだいにほんのしそうたいりつ

現代日本の思想対立

戸坂 潤

「現代日本の思想対立」今日の問題社、1936(昭和11)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,540 字 · 245 页

青空文庫

この吏道が専ら道徳的で精神的な影響を以て吾々人民へ伝えられねばならぬ理由は、恰もここにあるのであって、人民に向かっては如何なる政治方針も常に道徳として説得されねばならぬものなのだ。

だがよく考えて見ると、内務省だけが吏道振粛を買って出る理由はない筈だ。軍部の武官も亦一種の官吏と云っていいだろうが、ここでの吏道振粛は粛軍と呼ばれて現に盛んに行なわれている。軍の政治的発言は陸軍大臣を通じて一元化されねばならぬと、寺内陸相は軍部の地方長官会議たる師団長会議で述べている。之は軍部道が政治化すことを戒しめたのではなくて、軍人各個の随意の意見発表を戒めたものに他ならないが、この軍部の一元的な意図は人の知る通りだから、従って又人は、粛軍という吏道振粛が一つの対外的動向であることをよく知っているわけだ。であればこそ軍部道は、社会百般の事物に就いても粛軍的に一定の意見を挿むことに建前を見出すのだ――凡そ吏道とは内を意味するのではなくて外を意味するのだ。というのは之を振粛するとは、内に向かって振粛するのではなく実は外に向かって振粛することなのである。所謂吏道振粛、所謂〔粛軍〕、どれもそうなのである。