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たまつきばのいちぐう

球突場の一隅

豊島 与志雄

「新小説」1916(大正5)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,111 字 · 29 页

青空文庫

君がいう通り随分いやな婆だよ。」

「一体林とおたかのことは確かなのかい。」と松井は尋ねた。

「多分間違はないよ。勿論おたかの方から云やあ一時の撮み喰いにすぎないんだろうがね。」

松井は黙って洋盃を上げた。と村上も同時にぐっと一杯やった。

「それにね、」と村上は声を低くした。「林と云うなあ支那人じゃないかと思うんだがね。いやに黙りくさってにこにこばかりしていやがってね。りんと読めば君よく支那にある名前じゃないか。どうもあの顔付が何だか変だよ。」

「そう云やあ、あの顔の工合なんかどうも本物らしいね。」

もう二人共可なり酔っていた。瞳を据えて互の眼を見入りながら、彼等は何かある不吉なものを感じあった。それは言葉には現せないただ漠然としたものだったが、それが次第に色濃くなってゆくのを二人共意識していた。

「馬鹿な話だ。」

「馬鹿な話だ。」

こう殆んど同時に二人は云った。

「ほんとに林は支那人かね。」と暫くして松井は云った。

「なに事実はそうじゃないだろう。只そう思った方が面白いやね。」

「だんだん複雑してくるね。」

「何が?」

「何がって……おたかの周囲がさ。」

「僕達も当然そのうちにはいるんだろうね。