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たまつきばのいちぐう
球突場の一隅
豊島 与志雄
「新小説」1916(大正5)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,111 字 · 29 页
」
「君は一体おたかをどう思ってたんだい。」
「どうってそうきまった感情なんかあるものかね。ただおたかが居たんでより面白く球が突けたまでさ。」
「然しまだ妙な感情がずっと続くような気がするよ。僕は今は林が好きだ。」
「僕は一層嫌いだ。」
彼等は黙って十歩ばかりした。
「僕はずっとこの事のはじめから、」と松井は云った、「何だか神に離れていたというような気がする。僕の心は卑しいものに浸っていたような気がする。」
「そりゃあ君、女を失ったからだよ。」と村上は澄まして云った。
「そうかも知れない。」
然し松井は眼の奥に熱い涙が湧いてくるような気がした。その時村上は不意に、「おーう、」と通りのずっと向うまで響く大きい声を立てた。松井は喫驚して立ち留った。
「何だ!」村上の方から云った。
二人はそのまま黙ってまた歩き出した。空も地も凡てが深い夜の中に在った。