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びわでん

琵琶伝

泉 鏡花

「国民之友」1896(明治29)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,081 字 · 24 页

青空文庫

済まねえだから、死なねえだ、死なねえうちは邪魔アするだ。この邪魔物を殺さっしゃい、七十になる老夫だ。殺し惜くもねえでないか。さあ、やらっしゃい。ええ! 埒のあかぬ。」

と両手に襟を押開けて、仰様に咽喉仏を示したるを、謙三郎はまたたきもせで、ややしばらく瞶めたるが、銃剣一閃し、暗を切って、

「許せ!」

という声もろとも、咽喉に白刃を刺されしまま、伝内はハタと僵れぬ。

同時に内に入らんとせし、謙三郎は敷居につまずき、土間に両手をつきざまに俯伏になりて起きも上らず。お通はあたかも狂気のごとく、謙三郎に取縋りて、

「謙さん、謙さん、私ゃ、私ゃ、顔が見たかった。」

と肩に手を懸け膝に抱ける、折から靴音、剣摩の響。五六名どやどやと入来りて、正体もなき謙三郎をお通の手より奪い取りて、有無を謂わせず引立つるに、呀とばかり跳起きたるまま、茫然として立ちたるお通の、歯をくいしばり、瞳を据えて、よろよろと僵れかかれる、肩を支えて、腕を掴みて、

「汝、どうするか、見ろ、太い奴だ。」

これ婚姻の当夜以来、お通がいまだ一たびも聞かざりし鬱し怒れる良人の声なり。

四

出征に際して脱営せしと、人を殺せし罪とをもて、勿論謙三郎は銃殺されたり。